2019年10月28日月曜日

モシ族の口承物語~母を亡くした女の子の話


ポストカードの母子の手書きの絵

今日もまた、夫の事務所に勤務するモシ族の女性から聴いた、かのじょのおばあさんの口承話の中のひとつを書こうと思います。

以前にもお伝えしましたが、かのじょのおばあさんはすばらしい語りの名人で、短い話、長い話を織り交ぜ、その中にはお腹を抱えて大笑いをする話、教訓めいた話もあれば、森に潜む悪霊の話で怖がらせたり、悲しい話で皆で涙を流したり、バラエティー豊かな話で飽きることのない夜をちろちろと燃える火の明かりの下で過ごしたと言います。


昔々の話です。
ある村にPokoという小さな女の子が住んでいました。
Pokoは、優しいお母さんに育てられて、心根の優しい女の子に育っていきました。
しかしある日、お母さんはまだ幼い我が子を残して、病気で死んでしまうのです。
Pokoは悲しくて寂しくて心の穴をふさぐことはできませんでした。

まもなく、お父さんは新しい奥さんを迎えました。
Pokoの新しいお母さんはとても意地悪で、Pokoをこき使って一日中働かせました。
ご飯は少ししか与えず、家の中の一切をPokoにさせたので、Pokoはだんだん痩せていきました。
Pokoは優しかった自分の本当のお母さんを思い出しては泣いていました。
悲しくて悲しくて、どうしようもなくなったPokoは、ある晩、お母さんが埋められているお墓(この国は土葬です)までひとり歩いていきました。

お母さんのお墓にすがってPokoは泣きながら、お母さんに日々のつらい暮らしのことを話し続けました。
すると、お母さんの優しい声が聞こえてきました。

お母さんは、いつも、あなたのそばにいるよ。
あなたのそばで、いつも見守っているよ。
そのことを忘れないで。
安心しなさい。

その晩、Pokoはお母さんと歌って、ダンスをして一晩を過ごしました。
お母さんの愛情をいっぱいもらったPokoは気持ちが満たされて心が和らいでゆくのでした。
そして、Pokoは勇気が湧いてきて、家に戻りました。

家に戻ったPokoを継母は怒ってせっかんして、どこに行ってきたのか、何をしていたのかと問いただすのでしたが、Pokoは絶対にその晩、母と過ごしたことを言いませんでした。

Pokoは、悲しくなるとお母さんのぬくもりを求めてお墓に行き、お母さんと一晩を過ごして慰められて勇気をもらって、また家に帰るのでした。それは、Pokoの誰にも言わないお母さんとの秘密でした。
母の面影を求めて母が埋められたお墓まで行き、母の魂と共に安らかな時間を持つということは、幼いPokoには何にも代えがたいことだったでしょう。

こうして年月は流れて、Pokoは心も姿も美しい女性になってゆきました。
そんなPokoの話を聴いた近くの小さな国の王様は、Pokoを息子のお嫁さんに迎えることを決めました。
Pokoと小王国の王子さまは結ばれて結婚しました。
そうして、Pokoは幸せな家庭を持ちました。
~とさ。

モシ族の女性は、このおばあさんの話を聴きながら一緒になって悲しみ、泣き、そして、最後に主人公の女の子が幸せな結婚をしたと聞いて胸をなでおろして、皆で喜び合った、とわたしに話してくれました。
口承物語のすばらしさを思いました。

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