2014年11月28日金曜日

指ぬきと、”中国の王女さま”~ 「年とったばあやのお話かご」より

NHKテレビ小説”マッサン”より

毎朝、楽しみに観ているドラマ、マッサン。

主人公は、スコットランドから明治の日本に嫁いできたエリー。
スコットランドにウイスキーの醸造の勉強で留学していたマッサンの帰国の時、エリーも一緒に日本に来たのだ。
わたしは、フランスに嫁いだ娘と重ね合わせて観てしまい、つい感情移入し過ぎてしまうところも。中島みゆきが歌う主題歌からして、毎回うるうるしている始末だ。

その愛しのエリーがいつも肌身離さず首にぶら下げているのが、指ぬきのペンダントだ。
その理由がわかった。
ある年のスコットランドでのクリスマスのホームパーティーで、カットして配られたケーキのエリーのところに銀の指ぬきが、そしてマッサンのケーキには銀貨が入っていた。
指ぬきと銀貨が入ったケーキに当たった二人は将来結婚するという言い伝えがあった・・・。

そんな設定がドラマに隠されているらしい。
また、指ぬきについて調べてみると、紀元前の頃より船の帆の縫製で実用として用いられてきた指ぬきは、19世紀に入りイギリスで貴族女性たちの間で裁縫で使うために発達してきたのだという。
古い指ぬきを見ると装飾過美なものもあるが、指ぬきは欧米では結婚のお守りや女性の幸せをもたらすアイテムと考えられ、身に着ける女性もいるのだそうだ。

ふーむ、なるほど~。
エリーの指ぬきペンダントがますます輝いて見えてきたぞ!!!

いつだったか、裁縫の達人の日本の友人が、指ぬきをかたどったシャネルのピアスをしていたことがあった。
それがとてもかのじょらしくて、すてきねえ、指ぬきピアス!、と褒めると、指ぬきだと分かってくれたの、あなたが初めてよ!、と喜ぶのだった。
うなずける、日本の指ぬきは指輪形式のものだからな。
なんでお寺の鐘をぶら下げてるの?、というコメントもあったそうだ。

でも、日本でも少しずつこのコップ型の指ぬきが浸透してきて、コレクターも増えてきているようだ。


ある夏のわたしたちの絵本屋で、わたしはファージョン作の物語「年とったばあやのお話かご」の横にエッフェル塔の絵が描かれた陶器の指ぬきを数個並べて販売したことを思い出す。

絵本や物語と組み合わせて、関連する小物を並べて売る。
そのことで物語の世界の奥行きが深まると思ってのアイディアだったし、わたし自身も組み合わせを考えて楽しんだ。


ファージョン作 年とったばあやのお話かご


「年とったばあやのお話かご」の本と、指ぬきの組み合わせ。
来店のお客さんたちから、どうしてこの本に指ぬきなのですか?、と何度か質問を受けた。

確かに、ばあやは毎晩、ベッドの傍で子どもたちがこしらえた靴下の穴の繕いをしながら、子どもたちにお話を(しかも!うれしいことに、!奇想天外な夢たっぷりぷりん!の大ぼら話を!!)語るという設定で、この物語の原題は、”The Old Nurse's Stocking Bascket”というし、ばあやの裁縫箱の指ぬきからのグッズか~と考えてもらってもいいのだが。

実は、わたしにはもっと思い入れのある理由があった!
それは・・。

物語「年とったばあやのお話かご」の中の10話目”中国の王女さま”

岩波書店発行のファージョン作品集①の「年とったばあやのお話かご」には、ばあやが語る魅力的な作り話(子どもたちには至福のお話タイムだったろううな!)13話が入っている。
その中の10話目、”中国の王女さま”がまた不思議世界にいざなってくれるばあや独特の作り話で、しかも、ばあやが乳母を務めた中国の王女さまのコンパクトさの描写がすてきなのだ!


”わたしは、わたしのはり箱の中に王女さまの寝台をつくってあげ、わたしのハンカチをふたつに切ってシーツにしてあげました。”というくだりには、わたしが小学生の時に大切にしていた人形を思い出してうっとり!

王女さまの笑い声は、”ガラスの鈴の上に雨のしずくが落ちるような音”がした、とはなんて美しい表現だろう。

”銀のおさじでごはんをあげるとき王女さまはそれだけでおなかがいっぱいになったし、王女さまが、ばあや、のどがかわいたわ、というときは、指ぬきに牛乳を入れてあげたものでしたが、半分ものこしてしまわれるんです。”

ほら、ここ。
わたしのお気に入りの描写。

指ぬきで王女さまに牛乳を飲ませた、なんて!

ただ、この一か所で、わたしはこの物語の本の横に陶器の指ぬきを置くことを思い立ったのだった。


さて。
しばらくたって、先ほどの手芸の達人の友人の指ぬきのコレクションを知り、わたしはアフリカ滞在中、旅先で指ぬきをかのじょのために探した。途中からは、わたし自身のためにも2個ずつ。
南仏アンティーブで、アルプス地方で、トルコ・イスタンブールで、そして南アのケープタウンで。
そうやって、わたしの手元にも集まった指ぬきたち。

我が家の指ぬきたち

指ぬきに描かれる絵を見ていると、訪れた街のことを思い出す。

しかしなあ。
小さなお姫さまのコップに指ぬきを持ってくるとは、そしてその半分ものこしてしまう、と続くファージョンさんの描写には参ってしまうな。

エリーがいつも身に着けている指ぬきのペンダントから、あれこれ考える初冬の夜である。