2014年5月17日土曜日

 南アフリカ共和国からの写真集   ”SOUTH AFRICA”

5月の連休時に、夫婦で訪れた南アフリカ共和国のケープタウンとヨハネスブルグ。

帰りのケープタウン国際空港の本屋で一冊のきれいな写真集を見つけた。
写真家 Gerald Hoberman が著した”SOUTH AFRICA”だ。

南ア・ケープタウンで見つけた写真集 ”SOUTH AFRICA”


この写真集をひっくり返すと。

本の裏には、壁に描かれたンデべレ族の幾何学模様の写真が全面に

これは、南アフリカ共和国北東部のトランスバール地方に居住するンデベレ(Ndebele)族が家壁や塀に描く、鮮やかな色彩を黒ラインで引き締めた独特の幾何学模様だ。


外国の写真集といえば、大型本をイメージするが、この本は、横長で縦13.5cm、横18cmの本で、絵葉書の大サイズだと思えばいいかもしれない。
気軽に手にとってぱらぱらとめくれるサイズがまた嬉しい。


本を開いてすぐ、南アの地図が載っているのを見つける。
そして、その右ページに著者のメッセージ「はじめに」が載せられている。
メッセージ中にかれが旅して訪れた南アの多くの町の名が出てくるのだが、並んで載る南アの地図をなぞりながら読むのもまた興味深い。


南アフリカ共和国地図 ”South Africa”より

そのメッセージを読むと、ああ、この人は南アフリカ共和国をこよなく愛しているのだなあ、ということが伝わってくる。
それもそのはず、著者Gerald Hobermanさんは1943年にケープタウンで生まれている。
1960年後半、写真家になるべくロンドンに渡り、後にスタジオとラボを開設。しかし、家族経営の石炭配達業に加わるために1973年に南アに戻り、1996年に会社を売却するまで会社経営に携わる。

かれはまた、写真家としてだけでなく,出版業、作家業でも世界的な名声を得ているのだそうだ。

1981年に、かれにとって初めての著作となる”The art of Coins and their Photography”という貨幣の写真集を出版し、評判となったようだ。
1994年からは、スタジオを出て、息子のMarcと共に、野生動物の撮影のために世界中の旅を開始する。
かれは実に多くの国の写真集を出版しているが、その中でもケープタウンや南ア国内の写真集をいくつも著しているのに気づく。そこに、かれの祖国,南アを愛する心を感じるのだ。


この本を開くとすぐに目に飛び込むのが、”SOUTH AFRICA  by GERALD HOBERMAN”~ゲラルド・ホバーマンによる南アフリカ~という、この写真集についての解説文だ。

「著者Gerald Horbermanのレンズを通して見る南アは、時代の大きな流れを越えて、不思議で陰謀が渦巻き、なのに光り輝く色彩を放つ場所だ。
畏敬の念と共に,かれはムプマランガMpumalangaの”God's Window”と言われる急斜面に現れる日の出の美しさ、ケープタウンのブドウ畑の秋の色に染まる美しさ、天を突くドラケンズベルグ山脈の美しさを切り取り続けている。ンデベレ(Ndebele)族の家壁、バストー(Basotho)族の室内、フクロウハウスと呼ばれ、たくさんの鏡で神秘的な光の踊る芸術家の部屋~そんな鮮烈な色彩をかれの写真はとらえている。

かれのイメージする祖国は、また、人々が街角でとうもろこしを売り歩く、そして、南ア独特の食料雑貨店で日用品を買う、そしてまた、黒人居住地区で通行人に屋台で香ばしく焼かれた肉を売るといった光景が繰り広げられる場所なのかもしれない。

かれは、興奮と変化の時の流れの中で、祖国の美しさとそこに生きる人々を表現してきた。しかし、かれは変化しないものを見つめ続けてもいる。古い場所、昔からの習慣といった、時間に支配されないように見えるものたちを、だ。
かれの写真たちはかれが愛する祖国、そしてアフリカの突端に位置する祖国をいとおしんで生きてきた人々への贈り物だ。

この本は,ネルソン・マンデラ元大統領の釈放直後に撮られたロッベン(Robben)島の写真のように、60年代後半から70年代前半にかけてのBo-kaapとDistrict Sixから取られた歴史的な価値のある写真も含まれている。」


ケープタウンのブドウ畑 ”South Africa”より

サミーおじさんの雑貨屋 ”South Africa”より

バストー族(Basotho)の家 ”South Africa”より


著者の故郷ケープタウンはまた、アパルトヘイト撤廃のために闘ったネルソン・マンデラ元大統領の故郷でもある。マンデラさんは名門ケープタウン大学で学んだと聞く。
そしてまたマンデラさんが28年も捕らえられていたロッベン島はケープタウンの沖合いにある小島だ。
今回訪れて実感したのは、ケープタウンの町の美しさだ。
テーブルマウンテン、喜望峰を含む国立公園で豊かな自然を保護し、ブドウ畑が広がり、港湾の設備も整った美しい都市だった。
著者はこの写真集で、まずそんなケープタウンの町を色んな写真に切り取って、わたしたちに見せてくれる。


ケープタウン全景 ”South Africa”より


ケープタウンにそびえるテーブル・マウンテン頂上 ”South Africa”より


さらに、南アフリカ共和国の国民の民族の多様性にも驚く。
原住民の黒人も、オランダなどヨーロッパから移住してきた白人も、またその混血の、一見すると太平洋地域からの民族かと見まがう有色人も、共に南ア国民として共存している。
そこに、この国の持つ裏と表があり、オリジナル性も、そして困難さも見え隠れする。


ポート・エリザベスの街並み ”South Africa”より


豊かな動物相、植物相を持つ南アフリカ共和国  ”South Africa”より

著者は「はじめに」のところで、
「偉大な美しさを持ったこの地は、素晴らしい景色,多様性のある文化に富んでいて、動物相,植物相のバラエティ豊かさはほぼ間違いなく比類のないものだと言える。」
と祖国の持つ色んな角度からの美しさ、魅力を紹介している。

そして、
「この本で、我が祖国の美しさを紹介できて、そこに暮らす人々や不思議な魅力を見せる街の魅力を伝えられて、この南端の地を訪れてくれた方たちにすばらしいメモリーをプレゼントすることができたらと思う。」

「わたしが撮ってきた祖国の写真たちの中でもお気に入りのものを選りすぐってこの本を編んでみた。そんな写真たちをみなさんと分かちえることを楽しみにしている。

  Joy shared is joy doubled.   Gerald Hoberman」 

シェアするよろこびは、よろこびを倍にする。

ゲラルドさんの生きる姿勢を表したような言葉だ。


ぶどう収穫を喜ぶ人々 ”South Africa”より


白人として南アに生まれ育ち,祖国として南アを愛し、南アの魅力ある自然や文化や街や人々を写真に表し、さらに世界に飛び出してシャッターを切り続け、多くの著作や写真集を送り出してきたGerald Hobaermanさんは、闘病生活の末、かれの故郷ケープタウンで昨年12月21日に亡くなっている。

ケープタウンの空港の本屋で平積みされていたかれの写真集。
布張りの表紙の写真の美しさとサイズに惹かれて手に取った写真集。

旅先での写真集の出会いも、うれしい。