2017年12月19日火曜日

NHKカルチャーラジオ 「大人が味わうスウェーデン児童文学」

10月から3か月間、スウェーデン語翻訳家の菱木晃子さんの案内で、「大人が味わうスウェーデン児童文学」という講座が始まった。
”大人が味わう”、という言葉からも分かるように、菱木晃子さんの解説がなんとも温かく、人生を幾分たりとも長めに生きてきたわたしたちだからこそより深く理解できるでしょう~という視点がうれしく、おもしろい。

カルチャーラジオのテキスト
まずは、スウェーデンの児童文学の下地になっている、北欧神話、民話から入っていった。

そして、「ニルスのふしぎな旅」。
この物語が生まれた興味深い背景を知り、また改めて読んでみたい!、と強く思った。
漫画家、文筆家のヤマザキマリさんも愛してやまない「ニルスのふしぎな旅」。
この物語の魅力を別な角度から知ったように思う。

さらに、絵本「三人のおばさん」を通して見る、絵本作家、エルサ・ベスコフさんの生い立ち、教育観。かのじょも幸せな満ち足りた子ども時代を過ごしたからこそ、美しく物語を創作することのできた絵本作家だったのだ。

次に、待ちに待った我らがアストリッド・リンドグレーンさんの登場。
「長くつ下のピッピ」、「さすらいの孤児ラスムス」、「はるかな国の兄弟」の三作品を通して解説される。
菱木晃子さんも語るように、リンドグレーン作品には、大きく二つのグループに分けられると思う。
一つは、現実の場所を舞台にして、子どもたちの冒険や日常生活を明るく快活に描いたもの。もう一つは、空想の世界で物悲しくも壮大で神秘的に描いたもの。
どの物語の中にも、リンドグレーンさんの子どもたちへのまなざしの優しいことをひしと感じる。
リンドグレーンさんは、「あそんであそんで、あそび死にしないのが不思議なくらいあそんだ子ども時代だった。」と表現(菱木晃子さん訳のすばらしいこと!)するくらい、大人に見守られながら幸せな子ども時代を送り、それがどんなにか人生を送る中で大切なことだったのか、に思い至る、と言っている。

最後の月は、1980年代後半から約20年間にわたるスウェーデン児童文学の第三次黄金期だと菱木晃子さんが位置づける、ポスト・リンドグレーン時代の幕開けに出版された物語について語られる。
リンドグレーン作品を読んで育った世代が作家となり、また、スウェーデンにおける家族形態の変化も見られる中で発表されていった作品の数々。
この時代のうねりの中にもしっかりと受け継がれている、子どもたちへの温かいまなざしとエールが感じられると解説されている。
菱木さんのいう、「子どもの人格を尊重し、一人ひとりの個性を大切にしようとする」スウェーデン人の考え方。べスコフ、リンドグレーンから繋がっていく精神を感じる。

その中で、先週は、「ステフィとネッリの物語」が取り上げられた。
スウェーデン第2の都市、イェーテボリのユダヤ人家庭に育ったアニカ・トールによる物語だ。
第二次世界大戦前、ウィーンからイェーテボリ沖の小さな島に引き取られたユダヤ人姉妹が主人公で、1996年にアニカ・トールのデビュー作として、まず「海の島」が出版されている。
ステフィは12歳、ネッリは7歳。その後さらに彼女たちの物語は3冊編まれ、1999年に四部作「ステフィとネッリの物語」が完結する。
こんな出来事が第二次大戦中にスウェーデンの小さな島で起こっていたなんて。
かれらが過ごした6年間のスウェーデンの島での生活は、思春期にあたるステフィと、まだ幼く人生の大半を気持ちの上ではスウェーデン人として生きたネッリの、それぞれの成長物語でもある。
菱木さんは、「10代から、その親の時代、そして、第二次世界大戦を経験した世代、と三代にわたる幅広い読書層を獲得した。」と語っている。(著者自身の脚本で、スウェーデン国内ではテレビドラマにもなったそうだ。)
最後は、慣れ親しんだスウェーデンの島を離れて、実父と共にアメリカに行く決心をした姉妹が、島の人々と別れ出帆する場面で終わる。
辛い別れがあってこそ、次の舞台へ移れるんだという現実にわたしも共に向き合って、かれらの幸せを心から願ってページを閉じたことを思い出す。

菱木晃子さん案内の講座もあと2回を残すのみ。
最後は、スウェーデン児童文学の第三次黄金期の男性作家ウルフ・スタルクの二つの作品を取り上げるそうだ。
最期まで、目が(耳が!)離せない。
わたしは菱木さんの訳が大好きだったが、かのじょの温かい語り口に、ますます大ファンになってしまった!
いつか、いつか、お会いできますように。
楽しい、「大人が味わうスウェーデン児童文学」世界へのご案内をありがとうございました。

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