2016年9月14日水曜日

物語 ”ボノボとともに~密林の闇をこえて”

「ボノボとともに」(福音館書店)表紙

赤羽の子どもの本専門店”青猫書房”のオーナー岩瀬さんに「ボノボとともに」という本のことを聞いた時、とうとう、コンゴ民主共和国を舞台にしたこんな本ができたかあ、と感慨ひとしおだった。
作者と訳者のまえがきを読んで、絶対読みたい!!!、と思った。

わたしが2012年1月1日に夫がプロジェクトを持つコンゴ民主共和国キンシャサに着いた時、夫からほいっと渡された絵本があった。
キンシャサ郊外で森の仲間からはじき出されたボノボたちのサンクチュアリを運営するベルギー人女性、クロディーヌさんが執筆したボノボたちとの交流を描く絵本「Le Paradis des BONOBOS」だ。


フランス語で書かれた絵本、”Les Paradis des BONOBOS”


クロディーヌさんとサンクチュアリのボノボたち("Les Paradis des BONOBOS"より)


ボノボ、とは。
人類に最も近いと言われる類人猿で、猿の仲間のなかでは二足歩行の時間がいちばん長いとされ、コンゴの一部にしか生息しないボノボ。

そのボノボのサンクチュアリに長期間滞在し、クロディーヌさんに彼女自身の幼かった頃の話(彼女自身は両親ともベルギー人で、獣医の父の仕事で幼い頃コンゴに住んでいた。そして、彼女自身、孤児ボノボを、助からないだろうと言われる中を懸命に育て上げた経験者でもある。)を聞き、彼女たちの活動を間近にみてきたエリオット・シュレーファーさんがフィクションとして物語にしたのが、この「ボノボとともに」だ。

主人公は、ボノボのサンクチュアリを運営するコンゴ人を母に、アメリカ人を父に持ち、離婚した両親の中で、今では父と共にアメリカで暮らし、夏休みになると母のもとに戻るという生活をする、14歳の少女だ。

現在、コンゴ民主共和国としてみると国内東部では紛争が続き、首都のキンシャサはどうにか均衡は保ってはいるものの、いつ再び暴動がおこるか予測ができない不安定な部分もあるが、まがりなりにも平和が保たれてはいる。

この物語では、キンシャサに暴動が起き、コンゴ人の母のもとで夏休みを過ごしていた女の子が、街中で売られていた赤ちゃんボノボを買い取り、育てるのは難しいとされる赤ちゃんボノボを一生懸命育てていた。
一方、娘がコンゴに戻って来ても相変わらずボノボのために活動を惜しまず、サンクチュアリで十分に育ったボノボをコンゴ川をさかのぼって赤道州のボノボ棲息地に帰すために出かけた母が留守の間に、なんとキンシャサで暴動が起き、郊外のサンクチュアリにまで軍隊が押し寄せ、思わぬ展開で少女と赤ちゃんボノボがいろいろな危険に遭いながらも知恵を絞り勇気を持って突き進み、赤道州で立ち往生していた母に無事に再会するまでのサバイバルを本当に忠実に細かく描写して、手に汗握る、でも、感動の物語に仕立てあがっている。

作者がボノボのサンクチュアリでボノボの生態を細かに訊いて観察し、クロディーヌさんからの経験を聞き出して物語を構想したからこそ出せる忠実な描写が深みを与えている。
わたしが以前のキンシャサ滞在でサンクチュアリを何度となく訪ね、キンシャサ中心地からサンクチュアリのある森までの様子を知っているから真実味を持って読めるのかもしれない。

わたしは、先週、9月10日にキンシャサに降り立ち、再びここで暮らすことになった。
わたしのキンシャサ行きを喜んで送り出してくれた赤羽の青猫書房に、クロディーヌさんの「Les Paradis des BONOBOS」を置いてきた。
ぜひ、この”ボノボ”という類人猿のことを日本の皆さんにもこの2冊の本で知ってもらえたらと思う。

訳者の、ふなとよし子さんはこの本を翻訳するにあたり多くの本を読み、京都大霊長類研究の武市教授にも指南を仰いでいる。
彼女が参考にした文献の中に、なんと!田中真知さん著「たまたまザイール、またコンゴ」が入っていて、なんだかますます親近感が湧いてくる。

今年5月に出版されたばかりの本。
読んでもらうなら小学生から、自分で読むなら中学生から、とあるが、ぜひ大人の方にもお勧めだ。

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