2013年12月17日火曜日

アフリカの夜長に

今朝も、キンシャサのテレビニュースは、中央アフリカ共和国の宗教紛争(民族紛争)の悲惨さを伝えていた。

この国で20年前、わたしたち一家は3年間、暮らしていたのだ。

息子がボーイとして憧れたフランソワおじさんは、既に亡くなっている。
我が家の運転手だったポールはどうしているだろう。穏やかな本当に良い人だった。
わたしたちが名付け親になったポールのお嬢さんはもう20歳だ。辛い青春時代を送っているのだろうなあ。
ポールの叔父さんに当たるエドモンドおじさんは、軒下でいつもミシンを踏んで働くまじめな人柄で、我が家御用達の、腕の良い仕立て屋だった。

みんな、元気でいてほしい。生き延びて欲しい。
フランスに住む娘も、東京で暮らす息子も、そしてまたアフリカで暮らす私たち夫婦も、それぞれが思い出のたくさん詰まった中央アフリカ共和国の人々の無事を祈る思いで日々を過ごしている。


今日、キンシャサでの勤務を終えて帰国されたかたがいた。
かれは、わたしたち母娘の絵本屋ブログを見て、三人の息子さんのクリスマスプレゼントにとネット注文で数冊の絵本を購入されたのだそうだ。
帰国挨拶メイルにそんなことが書かれていた。
ニュースで伝えられる映像と相まって、わたしたちが中央アフリカの首都バンギで過ごした夜の読み聞かせの時間のことがとても懐かしくよみがえってきた。

北緯4度に位置するバンギは、一年を通して、夕方6時前後に日が暮れる。
夫はバンギから150kmほど北西に入った現場に月曜日から木曜日まで滞在する日々だったから、週4日は娘と息子とわたしの3人で夜を過ごしていた。
何もかも済ませて、早々に蚊帳を吊ったベッドに入った子どもたちと、ベッド傍に引き寄せた椅子に座ったわたしは、毎晩、物語の世界を一緒に楽しんだのだった。
停電に備えて、傍に懐中電灯を置いて、建て付けの悪い窓から忍び込んでくる蚊に刺されながら。


まず思い出す物語は、「飛ぶ船」だ。



”飛ぶ船”(岩波少年文庫・上巻) 

わたしたちがバンギに持って行っていたこの本は一冊のハードカバーのものだった。
現在は、岩波少年文庫から上下巻に分かれて出版されている。
イギリスに住む4人の兄弟姉妹がうす暗い小さな店で見つけた模型の帆船は、なんと魔法の飛ぶ船だったのだ。
時間空間、地理空間を自由自在に飛んで、子どもたちをいろんなところに誘う帆船に乗り込んで繰り広げられるスリル満点の冒険物語をわたしたちはどれほど楽しんだことだろう。
ヒルダ・ルイスの描く歴史物語の確かさが、さらに物語をリアルにスリルアップしてくれたのだった。


そして、ローラ・インガルス・ワイルダーの物語もまた懐かしく思い出される。
福音館書店発刊の「大きな森の小さな家」から始まり、「大草原の小さな家」、「プラム・クリークの土手で」、「シルバー・レイクの岸辺で」、「農場の少年」(以上、福音館書店)と読み進めていった。

”大草原の小さな家”(福音館書店 インガルス一家の物語2)

当時、母子それぞれが手書き新聞を毎月発行していて、それに三人でローラの物語を楽しんでいることを載せたら、夫の会社のかたが出張時に続編を五冊、バンギまで持ってきてくれたのだった。
本当にうれしい日本からのお土産だった。
岩波少年文庫の「長い冬」、「大草原の小さな町」、「この楽しき日々」、「はじめの四年間」、そして「わが家への道」の五冊だった。

”長い冬”(岩波少年文庫 ローラ物語1)

100年以上も前のアメリカ開拓時代を描いたインガルス一家の物語りにもまたはまり込んだものだ。
お父さんが町に買出しに出て何日も帰って来なくて、待ちに待ったお父さんがお土産を買って帰ってくる。きれいなキャンディや、貴重な窓ガラスだ。
わが家のお父さんも現場から色々なお土産を抱えて帰ってくる週末のお楽しみと重なり合って、ローラ姉妹の思いを共有したり、蚊に悩まされて、家の周囲にレモングラスを植える場面が出てきたときは、バンギと同じような環境に住むローラ一家を身近に感じたり。
アフリカ生活とアメリカ開拓時代の生活がオーバーラップして、わたしたちにエールを送ってくれるような物語だった。


スウェーデンの小さな村に住む三家族の子どもたちの暮らしを描いたアストリッド・リンドグレーン作の「やかまし村のこどもたち」、「やかまし村はいつもにぎやか」、「やかまし村の春夏秋冬」(岩波書店)の三部作も心底楽しんだ。この6人の子どもたちののびやかな北欧の暮らしぶりにどんなに和まされたことだろう。

”やかまし村の子どもたち”(岩波少年文庫)

「長靴下のピッピ」の作者でもあるリンドグレーンの子ども像には魅了されてしまう。


子どもたちの持つ天性のユーモアを直球で描写する、ノルウェーのマリー・ハムズン作「小さな牛追い」、「牛追いの冬」にもはまり込んだ。ランゲリュード家の4人の子どもたちの織りなす愉快なハーモニーがあちこちに散りばめられていて、そのたびに笑い合った。心地よい笑いだった。

”小さい牛追い”(岩波少年文庫)



笑い、で思い浮かぶ物語といえば、ファ-ジョン作の「年とったばあやのお話かご」(岩波書店)だ。
”年とったばあやのお話かご”(岩波書店 ファージョン作品集1)

イギリスらしい物語だ。兄弟姉妹の住む家には、毎晩、子どもたちがこしらえたソックスの穴かがりの繕い物をしながら、その穴の大きさに合わせて楽しい話までこしらえてくれる大法螺吹き名人のばあやがいるのだった。そのばあやの口から編み出される奇想天外な話がぎっしり詰まったこの本もまた、思い出深い一冊だ。

毎晩、毎晩、この就寝前の時間がわたしには至福のときだった。
静かなアフリカの夜だった。

どうか一刻も早く、中央アフリカ共和国の村々にも静かな平和な夜が戻ってきますように。

0 件のコメント:

コメントを投稿