4冊目は、わたしの愛するアストリッド・リンドグレーンさん作のこの絵本。
「赤い目のドラゴン」(岩波書店)
絵・イロン・ヴィークランド 訳・ヤンソン由美子
農村に住む幼い姉と弟が、ある時、我が家の豚小屋で生まれた子豚の赤ちゃんたちの中に一頭の赤い目をしたドラゴンの赤ちゃんを見つけます。スウェーデンの農家にドラゴンの赤ちゃんが生まれるという突飛な出会いから物語は始まります。
やんちゃな子どもドラゴンはとんでもないいたずらで小さな姉と弟を困らせるのですが、一生懸命に育てる二人とドラゴンは日に日に心通わせていきます。
幼い二人は、今日と同じ明日がずっとずーっと続くと信じて疑わなかったでしょう。長閑な農村の変わらない日々の暮らしの中で、ある日突然、別れが来るのです。
美しい夕焼けが広がる時間でした。
この別れの場面になると、わたしは決まって喉に込み上げるものを今も感じます。
生きていく中で悲しい別れがあった夜は、いつもこんなだったなあ、としみじみ思い返します。
リンドグレーンさんの子どもの描写は本当にすばらしいなぁと思います。
”小さい頃遊んで遊んで遊び死にしないのが不思議なくらい遊びまくった”幸せな子ども時代を自然豊かな農村で過ごしたと自著で語るリンドグレーンさん。かのじょだからこそ描けた子ども時代のこぼれ落ちる別れの悲しみ、切なさなのでしょう。
わたしたち一家が3年を過ごした中央アフリカのバンギに別れを告げて帰国する途中で、どうしても訪ねたい国がスウェーデンでした。
リンドグレーンさんの描く物語に出てくる農村や住宅街に行きたいのだけど~と、このドラゴンの絵本を手に持ってわたしたちはホテルのフロントのお姉さんに尋ねました。カウンターにいたお姉さんたちは仕事そっちのけで、目の前の一家にお勧めするリンドグレーンの世界が広がる場所をどこにすればいいのかと頭突き合せて話し合ってくれました。
わたしたちのリンドグレーンさんの本を持って訪ねてきてくれて、そりゃああなたたちに満足してもらえる場所を選ばないとねえ、と言って、結局、日程やもろもろの条件を入れてかのじょたちが勧めてくれた町は、ストックホルムから電車で1時間ほどのところの古い大学のある落ち着いた町、ウップサーラでした。そこには、スウェーデンの古い農家を保存するミュージアムもあるから、とも。
リンドグレーンさんは、わたしたちの国の大切な教育のご意見番なのよ、と胸を張って言っていたのをはっきり思い出します。
見事に赤く染まったきれいな夕焼け空の中をドラゴンが飛び立ち、その姿が点になって消えていきます。ドラゴンが幸せそうに歌う声がかすかに聴こえてくるような絵の美しさ。夕暮れの突然の別れの悲しみをベッドの中で必死にこらえるきょうだいたちの場面で幕を下ろすこの物語の切なさは何とも言えず心に沁みわたります。
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