今回は、「職人として人生を生きてきた、年輪を感じる手を持つ人」をテーマに選んだ2冊の絵本のコラボにして、このシリーズの最終回にします。
ハルばあちゃんのほうは2005年初版。
ルリユールおじさんは2006年初版。
どちらも、私自身のために買い求めた絵本と言えるかもしれません。
ハルばあちゃんは日本の海辺の村に生まれ、器用な手で周囲の人々を和ませ、家族を養い、ケーキ職人の夫とともに働いて晩年を迎えたとき、苦労して幸せに生きた女性だけが持つとても美しい手になっていました。昭和の町の匂いがページいっぱいに立ち込めます。
ルリユールおじさんのほうは、パリで今ではもう数少ない製本職人として父から息子へ受け継がれた確かな技術を持って生きてきたおじさんの、木のこぶのような手が、日本人画家のいせひでこさんの感性で描かれています。何度も何度もページをめくってボロボロになっても大切に持っている女の子の、木のことならなんでも載っているという図鑑を、"relieur"、製本職人のおじさんに修理をお願いすることで始まる、パリの町を舞台にした交流がとっても温かいのです。いせひでこさんの絵の力に引き込まれます。偶然にも、いせひでこさんにお会いしたことがありますがとても自然な感じの魅力的な女性でした。チェロ奏者でもあります。
(余談ですが、ルリユールおじさんに自分だけの図鑑に作り直してもらった女の子は、いせひでこさんの絵本の中に脇役として再び登場して、パリの植物園に勤務する植物学者になっています!)
ハルさんも製本職人のおじさんも、一生懸命に与えられた道を歩いてきた人たち。
その二人の持つ手の美しさが、生きた場所は違っても、共鳴し合うようです。
『パリのおばあさんの物語』の移民のユダヤ人としてパリに生きた女性もきっと美しい手を持つ女性なのだろうと思いを馳せます。
絵本は、子どもだけの本ではないと確かに思います。
良い絵本は手元に置いて、何度も読み返して人生を歩いていきたいなと思うのです。
姿勢を正してもらいながら。そして、エールをもらいながら。