3週間ほど前だったろうか、我が家で数人が集まってわいわいと夕食をとっていたときに、コンゴ河で捕獲された人面魚をYoutube上で見た、ということが話題に上った。
不気味な姿で本当に人魚のようだったとか何だとか、話に尾ひれが付いて本当のところはわからないが、”人面魚”というとやっぱりちょっと見たくない感じがする。
ワニやら巨大なまずが棲息するアフリカのジャングルを蛇行しながら流れるコンゴ河に住む人魚には、申し訳ないが悲恋の主人公も似合わなければ、可愛いアニメにも不向きだと思ってしまう。
”人魚”はあくまでもきれいな光に満ちた海に住んでいなくっちゃ。
さて、人魚、といって思い浮かぶのは、アンデルセン作、「人魚姫」ではないだろうか。
あの話は最後の最後まで悲恋の物語だった。
失恋ばかりで生涯を独身で過ごしたアンデルセンおじさんの心境が映し出された物語だったのかもしれない。
この「人魚姫」にヒントを得て出来上がったのが、宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」だと聞いたことがある。
わたしはこの映画を観ていないが、決して悲恋物語ではないようだ。
我が家の食卓でコンゴ河の人面魚の話題で盛り上がっているとき、わたしがひとり密かに思い出していた物語が、「3人のちいさな人魚」(評論社)だった。
コーラに、フローラに、ベラ。
南国の透き通った美しい海に住む、歌のとっても下手~な3人の人魚たちのかわいくも愉快な物語だ。
ティファニーカラーのブルーの表紙からして、お洒落でしょう。
上品でおしゃれなかわいらしさのあるイラストで、悲恋の”ヒ”もないどこまでも健康的(!)な物語だ。
作者は、ふたりのトレさん・・・・Denise Trez さんと、 Alain Trez さん。
勝手に、おしゃれなフランス人のカップルかな、と想像している。
物語は、3人の人魚たちが歌うあまりにひどい歌声のせいで沈没した客船に乗っていた可愛い女の子を救出したことから始まる。
沈没と言ったって、悲壮感のかけらもない。
人魚たちによって救出された女の子はしばらくかのじょたちと南国の島で暮らすことになる。
人魚たちの暮らしぶりはお洒落で清潔で明るく、海も島もいたってシンプルに描かれる。
人魚たちの日々の生活ぶりがまた愉快だ。
水の入った人魚たち用ベッドと、女の子のためのベッドが並ぶ場面にもうなずいてしまう。
海の底のあこや貝の中から、真珠の粒を集めて、女のこのためにネックレスを作ってあげる場面なんて、大人でさえもうっとりしてしまう。
すっかり人魚たちの生活になじんだ女の子だったが、魚たちに頼んで女の子を人間の住む陸地まで送り届けることになった。
最後に、女の子を送る歌を性懲りもなく人魚たちが歌うのだが、”忘れまじ~”という古典曲のような題名の歌だ、というのがまた笑える。
色味を抑えたページに明るいブルーが入り、人魚たちの住む透き通った光の世界をイメージできる。
1979年発行の絵本は、わたしと娘の大のお気に入りの一冊だ。
寒い日が続く冬の季節にこそ、暖かな人魚たちの南国の生活を想像して縮こまった心身をほぐすのも名案かもしれない。
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