2012年8月2日木曜日

赤い目のドラゴン

キノボリトカゲ

これは、キノボリトカゲというのだそうだ。国語辞典によると、琉球諸島に生息するトカゲだそうだ。
わたしのいるコンゴ・キンシャサでもこんなトカゲにあちこちで出会う。

そんな時、決まって思い出すのが、絵本「赤い目のドラゴン」(リンドグレーン作・岩波書店)だ。
1人の女性が(わたしはもちろんリンドグレーンさんを重ねる。)幼い頃の思い出を静かに語る、という形で進む物語だ。

ある日、弟とふたりで豚舎で赤い目をした子どもドラゴンに出会う。このドラゴンは変なものを食べ、いたずらをしたり、すねたりして、「わたしたち」に可愛がられて暮らすのだが、いつものように一日が終わり、温かいベッドが待っている幸せを思う夕暮れ時に、「わたしたち」のドラゴンが涙を流してさよならをし、きれいな夕焼け空の中に飛んで行ってしまう。

「12月2日の夕方のことでした。」
透き通った北欧の夕暮れの冷たい空気の中にいるような感じがしてくる。
スウェーデンの田舎の夕焼けに染まった景色が大きく描かれ、夕陽に向かって飛んでいくドラゴンを見つめる姉弟の、突然の別れの悲しみを共に感じてしまう。

娘が幼稚園に通園していた時、「この絵本を先生が読んでくれてとっても良かったからお家に持って帰ってお母さんと弟と読みたいと思って借りてきたの」、と持って帰ってきたのがこの絵本との出会いだった。
母子で読んでいって見開き2ページの夕焼けの光景の場面を開いた瞬間、わたしは子どもたちの前で大泣きしてしまった。
ドラゴンとの別れの悲しみを夕焼けの光景がとてもよく表していた。
そしてわたしが小さいとき、家族一緒に夕焼けを見ながらよく散歩した思い出が蘇ってきたのだ。
夕焼けの美しさには、どことなく別れの悲しみを感じてしまう。


絵本 ”赤い目のドラゴン”表紙

1995年、この絵本を持って、家族でスウェーデンを旅したことがあった。
ストックホルムのホテルのフロントで、リンドグレーンさんの描く田舎町に行きたいことを話すと、フロント係の若い二人の女性は、リンドグレーンさんの本の大ファンだという日本の母子を大歓迎してくれた。そのときはリンドグレーンさんは高齢ながらも存命だった。
「彼女はわたしたちの誇り!現在も子ども病院を作ったり、教育に関するご意見番でもあるのよ。」 
”わたしたちの大切なおばあちゃん”といった面持ちで誇らしげに話してくれた。

リンドグレーンさんの出身地は遠いから滞在期間にゆとりがあって車がないと無理だから残念だけど今回の旅では無理だわねえ、と言うことで、ストックホルムから列車で1時間のところにある、”ウップサーラ”の町を推薦してくれた。
その町について何の知識もなく、とにかく訪れてみたのだが、ウップサーラ大学と民族資料館と、普通の住宅街の広がるきれいな町だった。
訪れてみて、フロント係のお姉さんたちが勤務中にもかかわらず、あそこでもない、ここでもない、と地図を広げて、リンドグレーンさんの描く雰囲気に似た町を、わたしたちの旅日程に合わせて選んでくれた、彼女たちの「意図」がとてもよく感じられる町だった。


キンシャサで出会うトカゲくんたちは、そんなことも思い出させてくれる。


「わたしは、そのばん、本をよみませんでした。おふとんをすっぽりかぶって、あかい目をしたみどりいろのわたしたちのドラゴンのことをかんがえてなきました。」
わたしにもそんな晩が幼いときにあったなあ・・となんとなく思い出す静かなフレーズだ。

ずっと、きっと、子どものころの心を持ち続けて物語を織っていったリンドグレーンさん。
アフリカに住んでいると、リンドグレーンさんは、北欧の短い夏しか知らない子どもたちに、南国の太陽の下で生きる動物を物語の中でプレゼントしたかったのかもなあ、と思ってしまう。

わたしの大好きな大切な絵本だ。

4 件のコメント:

  1. 『赤い目のドラゴン』との出会いには
    そういう素敵ないきさつがあったのですね。
    もとは、幼稚園生のYukiちゃんの感性で
    選ばれたものだったのかぁ…うれしいな。
    Yukiちゃんがお母さんになった今
    なおジンときます。
    わが家に『赤い目のドラゴン』がやって来たのは
    hiroさんのおすすめだったからです♪
    たくさんの子どもたちに、そして元子どもたちに
    読んでほしいと思います。

    ちなみに、わたしが子どもの頃、テレビで観ていた
    『ムーミン』の最終回を迎えたときが
    ほんとうにほんとうに淋しかったのを覚えています。
    心にぽっかり穴があいたようで、放心していました…。

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  2. 去年の今頃は、赤羽の絵本やさんでたくさんの子供たちと昔子供だった方達をやさしくて大きなごり子ちゃんのぬいぐるみがお迎えしていましたね。
    ゆきちゃんと心やさしいレノさんの内装で、おしゃれでぬくもりのあるお店でした。
    ついこの前のようですが、ごり子ちゃんも南仏でちびちゃんの成長を見守っているんですね!
    『赤い目のドラゴン』と同じ色!きれいなトカゲですね。

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  3. someiyoshinoさん

    小さい頃の別れの思い出、って、今思い出しても胸がキュンとしめつけられるよね。”ムーミン”はあなたにとっての”赤い目のドラゴン”だったわけですね。
    わたしは、いつも丘の上に住むおばあちゃん家から帰った晩、寂しくて悲しくて、部屋から見える街路灯の明かりが涙でにじんで悲しい光りかたをするなあと思ってはまた涙が出て、声をひそめて泣くから、喉の奥が痛くって、布団を引っかぶって寝たことを鮮明に思い出して、また涙がこみ上げてきます。(ややこしい話ね。)

    わたし、この本がいちばん好きかも、なあ~。

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  4. チェロ子さん

    ホントに昨夏の絵本屋のあのお店がなつかしいです。
    チェロを背負ってヒョコヒョコ~っと現れて、大きな力をいつもいただいていました。チェロ子さんのチェロともうひとりのゆきさんのしっとりした詩の朗読コンサートは一生忘れられない大切な思い出です。
    絵本屋のあそこの空間は、いつも温かい陽射しが入り込んで明るくって居心地良かったな。
    ああ、また胸キュンだあ~♪

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