2011年12月8日木曜日

風に立つライオン

                「だれかがほしをみていた」(アスクミュージック出版)より

わたしは、さだまさしさんの「風に立つライオン」という歌が大好きだ。

それは、ケニアのナイロビに医師として赴任して3年が経つ青年が、元恋人から結婚通知を受け取り、彼女に宛てた近況を知らせる手紙、という形で書かれた歌だ。
彼女に伝えたかったこと・・・
「ビクトリア湖の朝焼け、百万羽のフラミンゴが一斉に飛び立つとき暗くなる空や、キリマンジャロの白い雪、草原の象のシルエット、何より僕の患者たちの美しさ」
「この偉大な自然の中で病と向かい合えば、神様についてヒトについて考えるものですね。・・・・闇の中ではじける彼らの祈りと激しいリズム、南十字星、満天の星、そして天の川。診療所に集まる人々は病気だけれど、少なくとも心は僕より健康なのです。」

さださんの澄んだ歌声を聴いていると、20年近く前家族と暮らしたアフリカの自然と人々を、涙が出るくらい懐かしくはっきりと思い出す。

あれは、1992年12月のクリスマス休暇で、中央アフリカのバンギからコンゴ共和国のブラザビルを経由してケニアのナイロビへ旅行したときのこと。ナイロビでの滞在先は夫の会社の宿舎だった。
ナイロビ最終日の前日、夕食にめちゃくちゃまずいカレーをわたしは作ってしまい宿舎のおじさんに激怒された。
お詫びに、染みだらけの宿舎ダイニングテーブルのクロスを洗濯して真っ白にし、いざアイロンかけだ!と思ったらアイロンがプチっと言って壊れた。
まさに泣きっ面に蜂・・。
途方に暮れたわたしは裏庭にある使用人棟のドアをノックした。宿舎で働く若いケニア人夫婦に助けを求めた。

宿舎のおじさんにまずい料理を作って怒られて、お詫びにテーブルクロスをぴかぴかにしようと思ったらアイロンを壊してしまった、わたしは今夜の飛行機で帰るから、急いでおじさんに知れずにアイロンを修理したいのだけど・・・と。
使用人夫婦の「今日は日曜だから店は閉まっているけど、明朝、わたしたちがこっそり修理に持って行くから大丈夫だよ。」という優しい言葉に、わたしは思わず涙がポトリ。
奥さんが、「おいしいミルクティーを作るからさあ入って!」。
いいのかなあ・・・Do I disturb you? お邪魔じゃない?
いいえ~、さあ入って、入って・・という言葉に部屋に入ると、まあ本当にきれいに片付いた部屋だった。
たんすやテーブルの上のそこここに奥さん手製のニットのクロスが敷かれ、西日の当たる清潔な明るい部屋にわたしは感動した。

二人がいままで座ってくつろいでいたと思われる椅子のところに編みかけの男の子用のベストが置かれていた。
もうすぐクリスマス休暇で帰省します、実家に幼い息子を置いてきているから再会が楽しみなのだと話す夫の傍で、わたしは編み物が好きだから、息子のためにこれを編んでいるのよ、と奥さんは優しく微笑んで話しながら、手際よく熱いケニアの生姜入りミルクティーを、さあ飲みましょう、体が温まるのよ、とテーブルに置いた。
その熱いミルクティーのおいしかったこと!
わたしのために入れてくれた彼らの温かい人柄とジンジャーの香りが心を和らげてくれた。
どうして小さな息子さんをナイロビに連れてこなかったの?という不躾なわたしの質問に、私たちが住み込みで外国人宅で働くのに子供連れだと仕事がないのよ、とちょっと寂しげに説明してくれた。

さあ、戻らなくっちゃ、飛行機に乗り遅れるわ、ありがとう、あなたたちのご親切に。
わたしはそういってドアをあけると、どっかりした地平線に届きそうな大きな夕日が本当に胸に染みた。

本当にしっかりと人生を受けとめてアフリカで生きる夫婦だった。
さださんが歌う、「アフリカに生きる人たちの瞳の美しさ」のところに来ると、ナイロビで出会ったあの夫婦をいつも思い出す。

この曲の間奏に「アメイジング・グレイス」のメロディーが使われているのが、またどうしようもなくいい。

さて、わたしは今夕、そのさださんのコンサートに行ってまいります!!それでは!
母の寛子でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿