アメリカ南西部で大きな山火事発生のニュースが日本にまで届きました。
夜になってもオレンジ色に染まった空をカリフォルニアから遠く離れたところからでも観察できたそうです。
からからに乾燥した森林で自然発生した小さな火種から、森全体を焼けつくす山火事の恐ろしさはローラ・インガルス著の「大草原の小さな家」でも描かれています。
そして、今回、コロナ渦中で地球の大国が敵対する中で起こったこの山火事のことに重ねて思い出したのが、アメリカ人のレベッカ・ボンドが著した絵本「森のおくから~むかし、カナダであった ほんとうのはなし」です。
物語の主人公のアントニオは、カナダのゴーガンダ湖畔でお母さんが経営するホテルに住んでいました。アントニオの友だちと言えば、ホテルで働く大人たち。そして、アントニオはホテルにやってくるお客さんたちを観察することも大好きでしたし、森に入っていろいろなものを発見するのも好きでした。
けれども、動物は決して彼の前に姿を見せませんでした。
ある夏、森でくすぶっていた煙から火が瞬く間に広がっていきました。
辺り一帯、煙と炎でものすごい暑さになり、逃げる場所は湖だけでした。
ゴーガンダじゅうの人たちは赤ちゃんも年寄りも皆、湖に集まりました。
そして、不思議なことが起こったのです。
炎と煙の向こうから、ぞくぞくと森じゅうの動物たちが湖に入ってきたのです。
小さな動物から大きな動物まで。
アントニオは目を見張りました。
皆、静かに湖の水に浸かって火事がおさまるのを待っていたのだそうです。
すぐ近くに動物たちがいる。動物たちのにおいも、あつい息遣いも感じます。
人間も、小動物も大きな動物も入り混じって、同じ湖に入って山火事から身を守っていたのです。
皆こうべを垂れて手を合わせて湖に浸かりながら待っている姿が、遠くの空はオレンジ色に染まって、辺り一帯は煙に覆われた真っ暗な空の下に描かれています。
皆が”共生”している。
美しい光景でした。
そして、山火事がおさまったとき、人間も動物も湖を離れて、静かにそれぞれの住み家に帰っていったのだそうです。
1914年、夏。アントニオが5歳の時だったそうです。
この話は本当にあったことです、と作者あとがきの冒頭に書かれています。
”あとがき”に主人公のアントニオの可愛らしい写真も見ることができます。
アントニオは、この物語の作者レベッカさんの亡きおじいさんです。
作者は、この話をおじいさんの娘である作者の母親から何度も何度も聴いたのでしょう。
おじいさんは、子どもたちにいろんな話をしてくれて、その話が今度は孫に伝わっていく。
レベッカさんは、お母さんが話してくれるおじいさんの物語の中で、この話がいちばん好きだったと回顧しています。
この絵本は、東京都下にあるゴブリン書房という、ご夫婦で営む出版社から出ています。
世界中の本を探して、ご夫婦が日本で紹介したいという本だけを出版しているということを経営者の講演で聴きました。
災難の中で、森じゅうの生き物たちが、静かに身を寄せ合って災難が去るのを待ち、災難が去ると、また何事もなかったかのようにいつものそれぞれの日常に戻っていく。
静かな時間の流れの中に、共に生きることの真実を描いている、感動の絵本でした。
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