著者は、ガエル・ファイユ。
1982年にブルンジ共和国でフランス人の父と、ルワンダ難民の母との間に生まれ、2009年にフランスへ移住。ミュージシャンとして活躍しながら、本書で作家デビュー。このデビュー作で、高校生が選ぶゴングール賞、FNAC小説賞を受賞している。
コンゴ民主共和国の東側に、北からウガンダ、ルワンダ、ブルンジと3つの小国が並ぶ。
その南端の、タンガニーカ湖に面し、反対側にはタンザニアと国境を接する小国、ブルンジ共和国が舞台になっている。
ブルンジで政変が起こったのが1993年で、11歳の主人公ギャビーは、父親(母親とは別居している)と妹と3人で首都のブジュンブラの、とある袋道にある一軒家に住んでいて、いたずら仲間や近所の人々(その袋道の隣人のギリシャ人女性から主人公は読書の楽しみを教えてもらう。)と幸せに暮らしていたが、政変を境に生活は少しずつ崩れていく。
1994年、隣国ルワンダでツチ族の大虐殺が始まった。
行方不明になっていた母親が変わり果てた姿で帰ってきた。
そして、ブジュンブラも紛争状態となり、物語の中では、主人公兄妹は二人だけでフランスへ発つ。
20年の年月を経て、主人公のギャビーは懐かしいブジュンブラの袋道に帰ってくる。
いたずら仲間だったアルマンと再会し、地区の一杯飲み屋で旧交を温めるが、お互いに古傷には触れない。優しい時間。
ギャビーは旧友に、読書の楽しみをおしえてくれた女性の残した蔵書を引き取るためにブジュンブラに帰ってきたことを告白する。
そして、旧友と再会した飲み屋で、さらに衝撃的な再会を果たすのだ。
その場面でこの物語は幕を下ろす。
この物語は、母親がツチ族ではあるが、ブルンジ共和国で過ごした幸せな少年時代を過ごした少年の思い起こす話が骨格として進むだけに、ツチ族の大虐殺後に起きる、人々の心の精神崩壊の悲惨さがとてもショッキングにあぶり出される。
当時のルワンダに住み、大人のツチ族自身の女性が隠遁生活を綴った、「生かされて」という本を思い出した。日本で2006年10月に初版が発行された本だ。
この「ちいさな国で」。
著者、ガエル・ファイユの自伝的小説とされる。
美しい詩的な表現力は、袋道の隣人、ギリシャ人女性の蔵書で培ったものなのだろう。
主人公がブジュンブラの住み慣れた袋道を出発するときに、女性が、時間がないからと、彼女の本のページを破って一篇の詩を渡す。わたしの思い出に、ここに書かれている言葉を胸にとどめておいて、いつかこの詩の意味がわかるはず、と。
訳者のあとがきで、著者が持つ、文体の独特なリズム感~アフリカならではのユニークな表現や喩えを、心地よいリズムを刻みながら淀みなく繰り返される見事な文章に、フランス本国で大人気の、かれのラッパー&スラマーとしての本領発揮だと大絶賛している。
平和だった少年時代の思い出話があって、それ故に、大虐殺がもたらす陰が凄みを与える。
余韻の残る物語だ。
2017年6月、日本で初版発行。早川書房から。
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