2021年11月13日土曜日

”アルケミスト~夢を旅した少年” ワガドゥグで読んで

 


ものすごく不思議な物語に出会いました。
ワガドゥグの日本大使館内にある図書室で出会った本でした。

「アルケミスト」 夢を旅した少年
パウロ・コエーリョ 著
山川紘矢・山川亜希子 訳
角川文庫
1994年12月 地湧社より刊行/ 平成9年2月 角川文庫より初版発行


いつだったか友人がこの物語のことを私に勧めてくれたことを、大使館の図書室本棚に「アルケミスト」を見つけたときに瞬時に思い出し、手に取ってしまいました。
”羊飼いの少年がアンダルシアの平原からアフリカの砂漠を超えてピラミッドを目指す。・・”
少年がサハラ砂漠を越えて旅をする物語なのだ。
ブルキナファソもサハラ砂漠の南の淵~サヘル諸国のひとつ。
この国で、わたしも少年の夢を旅してみよう。

この物語の著者は、ブラジル出身のパウロ・コエーリョ。3年間の世界放浪の旅の後、本国で流行歌の作詞家としてヒットメーカーとなったものの、反政府運動の嫌疑をかけられ投獄。再び世界を巡る旅に出ています。その後、作家として徐々に名声を得て、1988年に出版した「アルケミスト」で不動の地位を確立したということです。
彼の略歴をざっとみただけで、きらりと光る言葉がちりばめられた不思議なファンタジーの世界をなぜ物語に描けたのかがわかるように思います。

アンダルシアで羊飼いとして一人で旅をする少年、サンチャゴが同じ夢を二度見て、直後に不思議な老人に出会うのです。
「これからおまえがやっていくことは、たった一つしかない。そして、前兆の語る言葉を忘れてはいけない。運命に最後まで従うことを忘れずにな。」
世界のすべての素晴らしさを味わいながらも、根底にある大切なものを持ち続けること。

そして、少年は老人からもらった2つの石と、羊を売って得たお金をもって旅に出ます。
二度見た同じ夢を追って、自分の心に熱心に耳を傾けながら、目標に向かって進んでいきます。
「何かを強く望めば、宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる。」
「前兆に従うこと。」
彼の旅の途中で出会ったジプシーの女や老いた王様、どろぼう、クリスタル商人、オアシスの少女、そして錬金術師(アルケミスト)。
すべての出会いと少年の行動が無駄なく時系列で書き出されて、まるでチェーンの繋がりのように書き進められていく文体。繋がれていくチェーンがどこに向かうのか、わたしこそがその鎖を辿りながら少年の跡を歩いていくように物語を追っていけたのでした。
簡潔なのに、行間に宇宙のような広がりを見せる文体だからこそ、ファンタジーの世界に入り込めたのかもしれません。

物語の始まった場所に、少年サンチャゴは物語の最後にまた戻ってきて”終演”する、という終わり方にも魅了されました。

つかみどころのない不思議な文体で物語を紡ぐ手法は、まるで「星の王子さま」の世界だ、と思って読んでいたら、”羊飼いの少年サンチャゴが夢に従って旅に出て、ついには錬金術の秘密を手に入れるというこの童話風の物語は、サン・テグジュペリの「星の王子さま」に並び称されるほどの称賛を浴びました。”という一文を訳者あとがきで見つけました。

パウロ・コエ―リョさんの紡いだこの宇宙の中に漂っているようなファンタジーの物語の世界をそのまま届けてくれたのであろう山川紘矢・亜希子夫妻の翻訳にも感謝です。


2021年11月6日土曜日

本「現代アフリカ文化の今」

 最近、在ブルキナファソ大使館図書室に届いた本です。
ラッキーにもわたしは、いち早く借りて読むことができました。



「現代アフリカ文化の今 15の視点からその現在地を探る」
編者: ウスビ・サコ、清水貴夫
青幻舎刊/ 発行日:2020年5月30日

この本の帯には、

”同情と救済の対象から地続きのアフリカ世界へ” 
現代アフリカのポピュラーカルチャーを切り口にグローバル時代の新しいアフリカ像を展望する15の思考実験

とありました。
この本のまとめ役、ウスビ・サコさんは、マリ共和国出身で、中国で建築学を実践的に学んだ後、京都大学大学院で建築計画を学び工学博士取得。専門は空間人類学ということです。
サコさんの書いた「現代アフリカ建築と建設の今」の項は、わたしが足かけ30年の間見続けてきたアフリカ都市の町並みを思い出しながら読めて、おもしろかったです。(といっても、わたしはアフリカの下層レベルの人たちの中心地区には足を踏み入れることはなかったのですが。)
アフリカのそれぞれの国で根付く慣習、世界中に広がるアフリカ人ネットワークとアフリカの人々のタフな精神、商売力。
土地で生まれ育まれてきた宗教、伝統音楽と現代音楽、映画、写真、ファッション、そして建築。
芸術家として生きる姿勢、国際的に活躍するプロスポーツ選手や芸術家などを通して見えてくる”アフリカを生きる”ということ。
そして、アフリカとアジア、中南米の国々がこれからますます繋がっていくという重要性も考えさせられました。

いろいろな問題を抱えながらも、独特の文化風習を背景にバイタリティーあふれる生き方をするアフリカの人たちの今の姿とこれからを多方面からアプローチして提示する一冊でした。
実際には、政府間レベルでは未だに解決の難しいこともいくつも横たわっているのでしょう。国民の健康問題や環境問題にまでは行きつかないアフリカの政府の力。まだまだ国際援助に頼ろうとする政府の姿勢。

これからのアフリカには同情も救済も要らない。庶民レベルでは、対等に認め合って同じ地球人として生きることだなとしみじみ思いました。