これは、ケストナー作の絵本「どうぶつ会議」(岩波)の表紙の絵で、今日の話とは違います。ただ、森の動物の絵が欲しくて、ちょっと拝借しただけです。 |
絵本「どうぶつ会議」表紙(岩波書店) |
森の動物たちが会議を開いている様子の絵の中にも、しっかり、ライオンもカエルも描かれていますね。
今日は、ブルキナファソのモシ族に伝わる、森にすむライオンたち動物とカエルの物語です。
この話は、わたしの夫のプロジェクト事務所に勤務するモシ族の女性(ワガドゥグ大学卒の知的な女性です。)から聴き取りました。
かのじょは小さいときからおばあちゃんが大好きで、話し上手のおばあちゃんからよく昔話を聴いて育ったと言います。特に動物が登場する話が多くて、その中でも、いちばんに思い出すのが、これから話す「ごちそうにありつけなかったカエルの話」だそうです。
かのじょは、おばあちゃんから聴いたたくさんの昔話を今ではすっかり忘れてしまったと言います。なぜ、おばあちゃんから聴いた話を書き留めておかなかったのだろうと残念に思うと話しています。これから母親になるであろうかのじょには、亡くなったおばあちゃんの昔話がとても大切なものに思われるのでしょうか。
さて、この話を始める前に、かのじょから聞いたモシ族の昔の習慣をいくつかまとめておきましょう。
まず、モシ族には食前にも食後にも手を洗う習慣があったと言います。周囲の大人たちから、いつも食事前と後には必ず手を洗うようにと言われていたそうです。
それから、食事の時、食べ物を直接手でつかんで食べる習慣があったそうです。しかも、右手だけを使ったそうです。左手はトイレや鼻をかむときなど汚れるものの時にだけ使ったそうです。(これは、ネパールにいた時に知ったネパール人の習慣と全く同じで、遠く離れたアジアとアフリカで、しかも宗教も違うのにとびっくりしました。)
では、モシ族の女性に聴いた、モシ族に伝わる昔話を始めましょう。
昔々、まだ森ではライオンが王様(le chef)だった時のこと。
ライオンは、おいしいものを手に入れると、森の動物たちをよく食事に招待していたそうです。
動物たちは全員2本の後ろ脚で立って歩くと考えていたそうです。
でも、かえるだけはそうはいきません。
両方の前脚、両方の後ろ脚を交互に使って、ぴょんぴょんと飛び跳ねて食べ物の並ぶところまで行かなければなりません。
他の動物たちは、きちんと前脚である手を洗って、後ろ脚である足で歩いて食べ物のところへ行って席に着きます。
カエルは、しっかり手を洗っても、食べ物の並ぶところにたどり着いたとき、必ず他の動物たちから注意されました。
手が汚いよ、ちゃんと手を洗ってから食卓に着くのが決まりですよ。
はーいと言って、カエルは手を洗いに行って、しっかりと手を洗います。
でも、食卓のところに着いたときには、もう手は汚れています。
もう一度、洗っておいでよ。
はーい。
カエルはまた手を洗いに行きます。
でも、何度注意されて、何度手を洗いに行っても、戻ってくると手は汚れているのです。
ボクの手は洗っても洗っても汚れているのはどうしてだろう。
他の動物たちも思いました。
カエルさんだけは、手を洗っても洗っても、汚れているのはどうしてだろう。
そして、何度も何度も、手を洗いに行ったカエルは、どうしても手がきれいにならないので、とうとうごちそうを食べることができませんでした。
~とさ。
動物は後ろ脚だけで歩くことができると考えて、カエルだけが両前脚、両後ろ脚を使ってぴょんぴょんと跳び歩くと考える。確かに考えてみると、カエルだけは4本足で前進する方法が違いますね。
体も小さい、ぴょんぴょん飛び跳ねるカエルを子どもに見立てて、ご飯の前には手を洗うんですよ、というしつけ話のようにも取れます。
モシ族の子どもたちは、こんな寓話から、食事の前には手を洗うということを習慣づけられたのかもしれません。
ちなみに、昔のモシ族の習慣として、外から家の中に入るとき、履き物を脱いで家に入っていたのだそうです。