わたしが頻繁に行くキンシャサのゴルフ場は、街の中心にありながら、うっそうとした森の中に広がっている。
街中を自由に歩き回れないキンシャサ暮らしにおいて、大切な散歩空間でもある。
ウイークデーの朝早くに行くと、外国人マダムがキャディをしたがえて、ゴルフと散歩を楽しんでいる。
静かな緑深い空間が広がる、気持ちが落ち着くところだ。
キンシャサ・ゴルフクラブ1番ホール手前 ウエンゲの木の下 散った紫の花のカーペット |
今月27日にキンシャサを発ち、1年ぶりに日本に一時帰国する。
そのときに、我が家の書棚で再会を楽しみにする詩画集がある。
クリムトの絵が添えられた長田弘著の”詩ふたつ”(クレヨンハウス刊)だ。
”詩ふたつ” 表紙 |
「花を持って、会いに行く」と、「人生は森のなかの一日」の二篇で構成される、”詩ふたつ”。
どちらも”死ぬ”ということ、”生きる”ということをテーマにしている。
そうなのだ、人生を閉じる、とはこういうことなのだ。
クリムトの絵とともに、ページをめくりながら、静かに深く読んでいく。
わたしがこの詩の本に出会ったのは、2011年4月、神田神保町の岩波ホール近くにある本屋でだった。東北での大震災間もない頃で、日本中が混沌とした、雑然とした、鎮魂の空気に包まれている時期だった。
ふと、長田弘さんの名前に導かれて手にし、箱から出してページをめくって読んだとき。
ぽたん、と心にしずくが落ちて、水面の輪っかのように広がり沁みる波長がはっきり見えたように感じた。
そして、めくるたびに詩を読むたびに目に飛び込んでくるクリムトの花の絵,森の絵にも深いものを感じた。
震災後の日本全体に漂う喪失感の中で、詩を声に出して読むことの効果を身を持って感じていた時期でもあった。
今度の”夏の絵本屋”では、詩の本を置こう、と決めてもいた。
そうして、その年の夏に開店した”夏の絵本屋”で紹介する本の一冊になったのだった。
詩を声に出して読む。
そうだ、詩の朗読の時間を絵本屋で持とう。
友人のチェロの伴奏と友人の朗読。
人選はわたしの中で即決だった。
落ち着いた声で朗読してもらいたい、言葉の重み,深さをしっかり受け止めている人に朗読してもらいたい。
チェロの低く奏でる音質。
その中で朗読してもらいたい。
チェロ奏者にもぴったりの友人がいた。
選曲は、その年の春、バレエの舞台でかのじょが演奏した、”バッハ無伴奏”だ。
詩の選択は、朗読する友人に決めてもらおうと思った。
友人が選んだ詩は、この”詩ふたつ”だった。
そうして、2011年の8月、夏の絵本屋で、”チェロ・バッハ無伴奏”の生演奏とともに、”詩ふたつ”の朗読が実現した。
静かな夏の午後の、あのときの空間のことを、今も鳥肌が立つくらい、きれいな思い出として蘇ってくる。
この項を書くために調べていたら、長田弘さんは福島市出身のかただと知った。
この詩画集が出版される前年に奥様を亡くされている。
久しぶりの我が家で、この本に再会できる。
ひとり静かに声に出して読んでちょこっと心の休憩を、と思っている。
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