「パリのおばあさんの物語」(千倉書房)だ。
あかね色の帯が付いた表紙 |
あかね色の帯を外すと、パリの、上品で沈んだ色合いの、ぼーっと霞んだ町並みが一面に描かれている。
パリのアパルトマンが描かれた表紙 |
このグレイのアパルトマンの表紙の絵、原書では裏表紙に使われている。
原書の表紙には明るいグレイ一色に、上写真のあかね色の帯に見えるおばあさんの絵が描かれている。そしてA4サイズだっただろうか、一般的な絵本のサイズだ。
日本版では、原書の裏表紙を表紙に持ってきて、サイズを小さくして製本されている。
新書版よりちょっと大きめ、だろうか。
なんと素敵な絵本に仕上がっていることだろう。
日本版のほうが断然、雰囲気が良い!!
岸恵子の訳も良い!
(それから、岸恵子の”あとがき”も良い!)
絵本の帯をあかね色にしたのは、人生のたそがれを意味するのか。
わたしは、岸恵子のエッセイ、「パリの空はあかね色」と重ねてみたりもする。
この物語は題名でもわかるように、パリで独り暮らしをする、前向きに生きるおばあさんが主人公だ。
おばあさんにもこれまでに生きてきた長い道のりがあった。
このおばあさん、ユダヤ人で、第二次大戦中は過酷な人生を歩いてきている。
原書では、”ユダヤ人”という言葉がどこにも出てこない、と聞いた。
描かれるおばあさんの鼻で、自ずとああ彼女はユダヤ人だな、と欧米の人なら暗黙の了解があるのだそうだ。
パリのアパルトマンはどこも古い。
古いから、階段のところにスペースがなければ、エレベーターを後付けできず、階段のみの上り下りだ。長い年月で階段一段一段にくぼみができている。
また、玄関扉も古くて重い木のドアだ。
ドアや窓の建て付けも悪くなっているかもしれない。
そんなパリのアパルトマンに独りで暮らすおばあさん。
時々、息子から電話がかかってくる。
独り暮らしで不自由もあるけれど、しっかり前を向いて歩くおばあさんの姿が清々しい。
先月末、久しぶりでパリの街に出た。
パリのシャルル・ド・ゴール空港からバスでオペラ座界隈に向かう途中、シックなパリの町並みを年配のマダムが通る光景を見ながら、わたしはこの「パリのおばあさんの物語」を思い出していた。
わたしにもそこまで来ている老後の生活。
これから先、今まで生きてきたよりさらに多くの永遠の別れを経験するだろう。
不自由になってゆく我が身を辛く寂しく思うこともあるだろう。
家族で賑わっていたときの超多忙な日々もはるか遠くの思い出だ。
美空ひばりの歌う「川の流れのように」とも重なってくる。
知らず知らず 歩いてきた
細く長い この道
振り返れば はるか遠く
ふるさとが見える
でこぼこ道や 曲がりくねった道
地図さえない それもまた人生
ああ 川の流れのように
ゆるやかに いくつも時代は過ぎて
ああ 川の流れのように
とめどなく 空がたそがれに染まるだけ
表紙のアパルトマンの中に、ひとつの部屋だけ明かりが灯っているのが見える。
このおばあさんが住んでいる部屋なのかなと思えてくる。
スージー・モルゲンステルヌ作、セルジュ・ブロック絵、岸恵子訳のこの薄手のコンパクトな絵本は、わたしのこれからの人生のエール本だ。
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