2013年4月27日土曜日

一枚のぞうさんの絵はがきから



ぞうさん絵はがき、見つけた!


今回、娘のところに滞在したときのこと。
散歩の途中で入ったアンティーブの街の本屋で、こんなぞうさんの絵はがきを見つけた。


 "UN GROS BISOU"


直訳するとフランス語で ”大きなキスを!” という意味だ。
手紙の最後などに、愛情こめて、といった感じで書き添えられたりする。

大きなキスマークからぞうさんをイメージするなんて。
さすが、愛の国、フランスだ~、なんて思ってしまう。


わたしは、ぞうの絵はがきを見つけると、反射的に買ってしまう。


子どもたちが小さいときは、娘はクラシックバレエとピアノを、そして息子はバイオリンを習っていたことから、ダンスと楽器の絵はがきを収集していた。
どこに行っても絵はがきが売られていると飛んでいって探した。
それがまた楽しかった。

無印良品のシンプルな絵はがきファイルに綴じて眺める。
それもまた楽しかった。

そんなふうにしてずいぶんと集めた。


そして、みどりのぞうの絵本屋を始めたときから、ぞうの絵はがきの収集も加わった。


絵本屋のロゴマークのぞうさんは、娘が落書きのように、また自身のシンボルマークのように描いていたものだった。
絵本屋を開店するとき、娘が描いてきたぞうさんのイラストを使おう、と直感で思った。
そして、森の中のようなイメージで、みどり色のぞうさんにしよう。
即決だった。



第1回目の夏の絵本屋開店のお知らせはがき



夏の絵本屋の開店準備は5月の連休前、ちょうど今頃から始まっていた。
もう遠い昔のことのような気もする。
懐かしい、楽しい思い出ばかりがよみがえってくる。


今度、みどりのぞうの絵本屋を開店するときは、店じゅうに、ぞうさんの絵はがきを貼りたいな。
想いは膨らんでくる。


でも。
今は、キンシャサ。
キンシャサでしっかり足を地に着けて、いろんな人たちと出会い、いろんなものたちを見つめ、感じることを楽しんでいこう。


2013年4月17日水曜日

パリのおばあさんの物語

 これから先のわたしの人生の中で、手に携えてともに生きてゆきたい、と思う絵本がある。


 「パリのおばあさんの物語」(千倉書房)だ。


あかね色の帯が付いた表紙

あかね色の帯を外すと、パリの、上品で沈んだ色合いの、ぼーっと霞んだ町並みが一面に描かれている。

パリのアパルトマンが描かれた表紙

このグレイのアパルトマンの表紙の絵、原書では裏表紙に使われている。
原書の表紙には明るいグレイ一色に、上写真のあかね色の帯に見えるおばあさんの絵が描かれている。そしてA4サイズだっただろうか、一般的な絵本のサイズだ。

日本版では、原書の裏表紙を表紙に持ってきて、サイズを小さくして製本されている。
新書版よりちょっと大きめ、だろうか。
なんと素敵な絵本に仕上がっていることだろう。
日本版のほうが断然、雰囲気が良い!!

岸恵子の訳も良い!
(それから、岸恵子の”あとがき”も良い!)
絵本の帯をあかね色にしたのは、人生のたそがれを意味するのか。
わたしは、岸恵子のエッセイ、「パリの空はあかね色」と重ねてみたりもする。


この物語は題名でもわかるように、パリで独り暮らしをする、前向きに生きるおばあさんが主人公だ。
おばあさんにもこれまでに生きてきた長い道のりがあった。
このおばあさん、ユダヤ人で、第二次大戦中は過酷な人生を歩いてきている。
原書では、”ユダヤ人”という言葉がどこにも出てこない、と聞いた。
描かれるおばあさんの鼻で、自ずとああ彼女はユダヤ人だな、と欧米の人なら暗黙の了解があるのだそうだ。


パリのアパルトマンはどこも古い。
古いから、階段のところにスペースがなければ、エレベーターを後付けできず、階段のみの上り下りだ。長い年月で階段一段一段にくぼみができている。
また、玄関扉も古くて重い木のドアだ。
ドアや窓の建て付けも悪くなっているかもしれない。
そんなパリのアパルトマンに独りで暮らすおばあさん。
時々、息子から電話がかかってくる。
独り暮らしで不自由もあるけれど、しっかり前を向いて歩くおばあさんの姿が清々しい。



先月末、久しぶりでパリの街に出た。
パリのシャルル・ド・ゴール空港からバスでオペラ座界隈に向かう途中、シックなパリの町並みを年配のマダムが通る光景を見ながら、わたしはこの「パリのおばあさんの物語」を思い出していた。


わたしにもそこまで来ている老後の生活。
これから先、今まで生きてきたよりさらに多くの永遠の別れを経験するだろう。
不自由になってゆく我が身を辛く寂しく思うこともあるだろう。
家族で賑わっていたときの超多忙な日々もはるか遠くの思い出だ。


美空ひばりの歌う「川の流れのように」とも重なってくる。

知らず知らず 歩いてきた
細く長い この道
振り返れば はるか遠く
ふるさとが見える
でこぼこ道や 曲がりくねった道
地図さえない それもまた人生
ああ 川の流れのように
ゆるやかに いくつも時代は過ぎて
ああ 川の流れのように
とめどなく 空がたそがれに染まるだけ



表紙のアパルトマンの中に、ひとつの部屋だけ明かりが灯っているのが見える。
このおばあさんが住んでいる部屋なのかなと思えてくる。

スージー・モルゲンステルヌ作、セルジュ・ブロック絵、岸恵子訳のこの薄手のコンパクトな絵本は、わたしのこれからの人生のエール本だ。