映画 えんとつ町のプペル
製作総指揮・原作・脚本:西野亮廣
幻冬舎
昨年の暮れ、友だちから『映画・えんとつ町のプぺル』をプレゼントされた。
この映画を日本で観てから夫の元に行こうと思ったけど、観られないままで残念だと言い残してフランスに戻って行った。
空想の世界を描く物語が好きな友だちが勧める物語だけあって、とっても幻想的な絵と物語だ。
絵本に出てくる絵はすべて夜の町。
絵本に使われる紙自体が、黒い。
舞台は、煙がもうもうと上がる工業地帯と、そこに広がる夜の飲み屋街。
まるで、わたしが3歳まで住んでいた北九州工業地帯を見下ろす枝光の高台からの夜景を思い出す。
公害がひどくなって長い煙突が2本建設された後の北九州工業地帯の夜景だ。夜の工業地帯風景の名所に挙げられているとも聞く。
戦後すぐに宅地整備された高台の住宅地から下って行くと、路面電車が通る雑踏の工場の街が広がる。八幡製鉄所の工員たちが仕事を終えた後に繰り出す飲み屋街からの喧騒、路面電車や工場からのざわめきが高台に建つ木造の我が家にも上って来ていた。
北九州工業地帯の高い煙突や曲がりくねって林立する太い鉄の管に取り付けられたピカピカと点滅する照明の手前には、鹿児島本線が土手の上を走っていた。
当時は、夜行列車も頻繁に走っていたから、工業地帯の星のような灯りの中を長い光が尾を引くように走り抜けていた。
わたしは、耳に入ってくる街の音が溶け込む光景を、夢の中にいるようにうっとり見とれるだけだったが、あの漫画家の松本零士さんはしっかりとその感覚を『銀河鉄道999』の漫画に昇華させていたのだと知ったときは、ヤラレタァー!!!、と思ったものだ。
そんな幻想的な煙にむせぶ工業地帯の夜景の中で、せつなくも美しい話が進んでいく。
ゴミ山のごみでできたゴミ人間、プぺルから出るくさい臭いもガスになってもうもうとプペルの回りに漂っている。
さぞかしくさいんだろうなあ。臭ってくるようだ。
工場からの煙と、ゴミ人間から出るガスの煙と、それから冬の凍える空気に漂う蒸気が入り混じって町じゅうがもやっている。
母親と二人暮らしの少年、ルビッチとの間に芽生える友情もまた、煙の中でせつない。
煙が目に沁みるんだか、心が感動しているんだか、そんな不思議な気持ちが湧いてくる。
ハローウィーンの夜に出会った二人の因縁。
少年の父親は船乗りだった。
父は、煙を通り越したその上には、光り輝く石っころが浮かんでいると言った。
何万個もの光る石っころ~「ホシ」が浮かんでいると言った。
地上からは決して仰ぎ見ることのできない「ホシ」。
そして、ついに二人は煙の層を突破して、父が話してくれた何万個もの光るホシを観た。
何もかもを理解したプペルとルビッチの深い繋がりに心洗われる。
今も、あの北九州工業地帯を見下ろす高台にわたしのいとこ夫婦が住んでいる。
代が替わっていっても、ドアを開けるといつも同じ懐かしいにおいがする高台の家。
いとこ夫婦にこの絵本を贈った。
小さいころから、いつもわたしたちを温かく迎えてくれてありがとう、の気持ちを込めて。