思いもかけず、一冊の本によってタイムスリップしたかのように60年前のコンゴを訪ねることができました。
アフリカのエキスパートのおひとり、T大使の紹介で蔵書をお借りして読んだ、「剣と蝸牛の国、コンゴ― 黒い大陸の明るい人達」(山本玲子著、野田経済社、1961年9月30日初版、現在廃版)です。
アフリカのエキスパートのおひとり、T大使の紹介で蔵書をお借りして読んだ、「剣と蝸牛の国、コンゴ― 黒い大陸の明るい人達」(山本玲子著、野田経済社、1961年9月30日初版、現在廃版)です。
1960年6月30日のベルギー領コンゴ独立の前後、1年半を、レオポルドヴィルの日本領事館(現キンシャサの日本大使館)勤務の夫の転勤に伴って同行した一日本人女性の滞在記です。
かのじょの生き生きとした文章力と鋭い観察力にのめりこみ、実際に1959年~61年のコンゴに入り込んだように、大笑いし、大きく頷き、わたしたちが2012年から暮らしたキンシャサとの違いに驚きながら読みました。
表題になっている、「剣と蝸牛(かたつむり)」とは何だろう、と読み進めていくと・・。
1960年の独立を推し進め、”独立の父”として亡くなった今も人気を保つ初代大統領カサヴブ氏の出身地、バコンゴ地域に14,5世紀の頃に栄えたバコンゴ王国の象徴が「蝸牛と剣」だということです。
また、カサヴブ氏によってバコンゴで結成されたアバコ党の結束力が1960年のコンゴ独立に導いたと言われていて、そのアバコ党の微章にも蝸牛と剣が使われているとも書かれていました。
「剣」は権威を、また「蝸牛(かたつむり)」は指導者に求められる資質を示しているのだそうです。
かたつむりのようにゆっくりと正確に黙々と忍耐を持って進む指導者。
著者が身近に見聞したカサヴブ氏の印象は、かたつむりそのものだったと記されています。
独立前後のコンゴのエネルギーを肌に感じ、直後に起こったコンゴ動乱にも遭遇し、間もなくコンゴを後にし帰国した著者の、未来のコンゴの国への応援の言葉でこの滞在記は終わっています。
「・・急激にベルギーの枠から外れ、独り立ちし、この世界に飛び込んだ彼らには、これからもあらゆる面での困難は多いことでしょうが、この勇敢であり、進取の気性に富んだ楽天的な国民は、その進み方は外からの目には遅く見えるかもしれないのですが、でも、あらゆる困難を押しのけ、躍進していくこととわたしは信じています。」
その後、国民たちはモブツ大統領の下で困難にあえぎ、豊富に眠る天然資源のために先進国から翻弄され、未だに戦闘状態の地域もあり、平和とは言い難いコンゴですが、著者の言葉のようにわたしもこの国の未来を信じて、コンゴの人たちを見守り続けたいと思います。