神沢利子さん作、山脇百合子さん絵の、「わたしのおうち」(あかね書房刊)だ。
ぐりとぐらシリーズ、ももいろのきりん、いやいやえん、などでおなじみの山脇百合子さんの絵は、温かみがあって子どもの表情がいい。
絵本「わたしのおうち」 表紙 |
お母さんからもらった、特大の段ボール箱と、水玉模様のきれっぱし。
それを使って、女の子は、お人形さんのじゃない、わたしだけ(!)のお家を作る!
わたしも、小さい頃、自分だけの家を持つ、という夢があった。
だから、飽きずによく、部屋の隅っこに応接台を立て掛けて、風呂敷をぶら下げて空間を仕切って、”わたしのおうち”を作った。
小さな、小さなスペースだけど、わたしには、台所も、リビングも、そしてベッドルームも見えた。
ままごとセットと、小さな座布団を使って、居心地の良いスペースを作って、あれこれと想像して遊ぶのが大好きだった。
「しらゆきひめ」に出てくる七人の小人たちの家はどれだけ深い森に建っていて、どれだけ可愛らしくって、どれだけ小さなベッドだったのだろう、と想像したり。
「小公女」がミンチン先生にいじめられて、クタクタになって階段を上って帰る屋根裏部屋が、ある日、すてきな部屋に変わっていた、ってどんなだったのだろう、と想像したり。
それから、カラスノエンドウのお豆を使って、料理をして楽しんだり。
オオイヌノフグリや、たんぽぽやスミレの花びらでケーキを作って、お茶の時間にして楽しんだり。
この絵本の女の子は、大きな段ボール箱でわたしだけのおうちを作り上げる。
こんなに特大の段ボール箱があったら、空想も大きく膨らむなあ。
わたしも欲しかったなあ、こんな特大段ボール箱。
こんな大人になっても、真剣になって女の子を羨ましがってみたり。
女の子も、やっぱり、段ボール箱の(家としては)小さな空間の中で、すてきな空想のお家を作り上げていく。
幼い弟に邪魔をされても、最後には弟を入れてあげて、姉らしい可愛らしがいとおしい。
おやつを”わたしのおうち”で食べている姉弟の表情に、温かい春風がさ~っと爽やかに吹き抜けていくのを感じる。
ある夏の、絵本屋で。
わたしはこの絵本を子どもたちと一緒に読んで楽しんだ。
そのあと、タクトくんという幼稚園年長さんくらいの男の子がわたしのところにきて、この本ください、と言って持ってきた。
おおがらな、活発そうな男の子だった。
その子のお母さんが、本当にこの本でいいのね、と傍で言っている。
タクトくんは、ちょっと恥ずかしそうな表情を浮かべて、でもきっぱりと、うん、と頷いた。
なんとうれしい!
わたしの大好きな、わたしの小さいころの夢がそのまんま詰まった絵本を選んでくれたタクトくん。
かれも、特大段ボールを見つけて、かれだけのおうちを作って思う存分、あそびの空想の翼を広げて楽しむのかなあ。
そんなことをこちらもうれしく想像して、タクトくん親子を絵本屋のドアのところで見送った。
この絵本を広げるたび、あの夏のタクトくんのことを思い出す。