2014年6月26日木曜日

大型絵本 ちいさいおうち~引越しに寄せて

大型絵本 ちいさいおうち 表紙 (岩波書店)

数日前、キンシャサの住宅地ゴンベGombe地区から、ごちゃごちゃとした商業地区のアパートに引っ越した。
緑広がり、小鳥のさえずりに和まされ、夕日の沈むコンゴ河を眺められた環境から一転し、商店が立ち並び、見渡せば、近代的ビルとはいえない、また植民地時代のものと思われるビルもごっちゃに林立する独特の雰囲気のキンシャサ大都会のど真ん中に移ってきたとき、ふっと思い浮かんだ絵本がこの「ちいさいおうち」だった。

作者は、アメリカのバージニア・リー・バートン。
かのじょは、1942年に長女のためにこの「ちいさいおうち」を描いたのだそうだ。そして、この絵本でコルデコット賞を受賞している。
日本では、1954年に岩波書店から石井桃子の訳で「岩波の子どもの本」シリーズの一巻として発行される。
その後、1965年に原書に近いサイズの大型絵本で発刊されたのだそうだ。

物語の舞台は150年ほど遡った時代のアメリカ。
表紙からも分かるように、緑豊かな自然たっぷりの小高い丘の上に、小さいけれど堅牢に建てられたこの家に、若い夫婦と子どもたちが幸せに住んでいた。
太陽は東から昇り西に沈み、月は満ちて欠け、季節は春から夏、秋、冬とめぐって月日は流れ、”ちいさいおうち”は静かにいろいろな変化を見続けてきた。
はるか遠くの街の灯りを見て、憧れや興味をもって眺めてもいた。

やがて、その街の灯りが徐々に近づいてきて、”ちいさいおうち”の建つ田舎にも開発の波が押し寄せてきて、大きな舗装道路が通り、車が走り、高い建物の建設が始まった。
月日はさらにめぐって、ちいさいおうちは誰からも忘れられたように大都会の真ん中でビルに囲まれてぽつんと残された。

ある日、そんな大都会のど真ん中に見捨てられたように建つその家の前を偶然通りかかった女性が、祖父の祖父の祖父が建てた家だったことを知り、”ちいさいおうち”をまた広い自然の中の丘に移築し、よみがえらせてくれたのだった。


・・・そんな物語だ。
また、作者のバージニア・リー・バートンがバレエダンサーだったせいか、物語の展開が実にリズミカルなのだ。
舞台の上のセッティングのように絵本のどのページにも「ちいさいおうち」を中心に置き、その周りに太陽の一日の動きや月の満ち欠けの周期を、また季節の風景の変化を描くことによって、移り変わる歳月の流れをよどみなくリズミカルに表現している。

移り変わっていく自然の中で、日々の暮らしが営まれ、また世代交代していく家族。
そんな家族を見続け、しっかりと建てられた”ちいさいおうち”は周囲の環境の変化の中で、星も見えず、夜になっても明るく騒音に満ちた都会の中で誰からも見向きもされなくなり、ただひとりぽつんと変化を受容するしか術のなかった”ちいさいおうち”の気持ちに、今さらながら思い至ってしまう。

でもよかった!
また、新しい家族が”ちいさいおうち”に命を吹き込んでくれたのだ。

この絵本の表紙に描かれる空の青さのブルー、幸せ満ちた目のように描かれた”ちいさなおうち”の窓、生命の息吹が上がっているような煙突のけむり、りんごの(と思われる)木に、にこにこお日さまの下でさえずり回る小鳥たち。
”ちいさなおうち”の幸せイコール住人たちの幸せ、なのだろうなあ。


アフリカ大陸の大都会キンシャサのど真ん中に移り住んで、緑豊かな自然から離れ、見えるのはアフリカ独特の高層ビル群だけという地域に身を置いたとき、ふっと思い浮かんだこの物語。
あらためて、”ちいさいおうち”が自然豊かな環境に移築され、家族に住んでもらえるようになってよかったなあと胸撫で下ろすのだった。



キンシャサ住宅街ゴンベ地区のアパートからの風景 緑の向こうはコンゴ河


キンシャサ大都会のアパートからの風景